イヌイットの秘密
DPAはアザラシの脂に多く含まれている成分ですが、この成分が発見されるきっかけとなったのは、このアザラシを主食としている人たちがいたからであり、彼らが健康であったからなのです。カナダ北部やデンマーク領グリーンランドの北極圏で暮らす人々は「イヌイット」と呼ばれています。
この極寒の地で暮らすイヌイットは、食生活をはじめとする生活習慣が私たちのような先進諸国に住む人間とは大きく異なるわけです。イヌイットの主食はアザラシをはじめとする海獣であり、捕獲したアザラシを凍る前にすばやく解体し、生のまま食べるのが伝統的な食事の方法となっているのです。
イヌイットの食生活においては、総摂取エネルギーに対する脂質の割合が35~40%にも上ります。一般的に、脂質の割合の適正値は上限が25%とされていますし、彼らの場合には新鮮な野菜や果物の摂取量も十分であるとは言い難いため、常識的にみれば彼らの食生活というものは、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの危険性が非常に高いものであるということになるわけなのです。
ところが、グリーンランドのイヌイットとデンマーク人とを比較した疫学的調査では、イヌイットに急性心筋梗塞が圧倒的に少ないことが報告されたのです。新鮮な野菜類などの摂取量が少ないイヌイットの方が、疾病のリスクが少ないという結果が得られたことから、その原因を追究したところ、彼らの主食であるアザラシの肉に含まれる成分に注目が集まるようになったわけです。そしてこれが、様々な研究が世界中で行われるきっかけとなったわけであり、DPAの発見に至るわけなのです。